浄土に比せられる観音霊場

686年創建とされる長谷寺は、『万葉集』で「隠口(こもりく)の初瀬」と呼ばれ、平安時代以降、観音霊場として貴族の信仰を集めてきました。

長谷寺の桜 東側から国宝の本堂を望む(撮影協力:長谷寺 Photo by Miro Ito)
本坊前から国宝の本堂を望む(撮影協力:長谷寺 Photo by Miro Ito)

長谷詣という文化を生む荘厳景観

古くからの龍神信仰とも重なり合う、山の神・水の神の聖地である初瀬。花々が咲き誇る大和長谷寺は、豊かな自然の恵みとともに、この世の極楽浄土の景観に比されます。

平安時代の女流貴族文学を代表する『源氏物語』をはじめ、『更級日記』『蜻蛉日記』等には、「長谷詣」が記されています。

中世以降は、武士や庶民にも広まり、現在は、全国240箇所ほどの真言宗豊山派長谷寺の総本山となっています。

初瀬・長谷山口坐神社の拝殿(Photo by Miro Ito)

聖地としての初瀬 古来の天神

初瀬は、古来天神(水神・雷神)の坐す聖地でした。古来の神は、滝蔵神(たきくらのかみ)と山口神(やまのくちのかみ)で(1)、両者には、古くからの龍神信仰との関わりが指摘されています。

地名を冠した「山口(坐)神社(やまのくちのかみのやしろ)」は、平安中期に成立した法典『延喜式(えんぎしき)』臨時祭(りんじのまつり)の祈雨神祭(きうしんさい)八十五座に数えられ、水源となる山間の地に、山の神を祀り、国家祭祀(さいし)の場とされました。

註-1『古代山岳寺院の研究 一 長谷寺史の研究』巌南堂書店、1979年、逵日出典[つじ ひでのり]著

長谷寺 十一面観音菩薩立像 重要文化財 室町時代 (撮影協力:長谷寺 Photo by Miro Ito)

十一面観音信仰

水源としての山の神・水の神と十一面観音の結びつきには、古来自然に神を見 出す神道と仏教が習合する精神景観が横たわっています。

滝蔵神と山口神といった天神(あまつかみ)は、仏教の興隆とともに進展した神仏習合信仰において、神の化身として仏が権現する「本地垂迹説(貞観元年859年以降)」(2) が成立してからは、「本地仏」として、十一面観音となったと考えられています。

長谷寺の本尊十一面観音菩薩立像も、左手に蓮の花を指した水瓶を持っていま す。方形の大磐石という台座に立ち、右手に錫杖を持つ姿は「長谷寺式十一面 観世音菩薩」という、独自の形象として知られています。

雨乞いの祭祀とのつながりを示す脇侍も独特で、左側に雨宝童子、右側に難陀 龍王が配されています。

註-2 仏が神の姿を借りて権現する「本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)に由来。鎌倉時代か ら室町時代にかけて、神々に応じた本地仏(仏・菩薩)が定められた。

長谷寺 十一面観音菩薩立像 重要文化財 室町時代 (撮影協力:長谷寺 Photo by Miro Ito)

日本最大の木造仏 長谷寺十一面観音菩薩立像

十一面観音は密教の尊格で「仏説十一面観世音神咒経 (しんじゅきょう)」「十 一面神咒経」に依拠し、10 種類の現世での利益(十種勝利)と 4 種類の来世で の果報(四種功徳)をもたらすとされています。

梵名エーカダシャムカ(Ekadaśamukha)は、初唐以降の中国で信仰され、雑 密系の尊格として奈良時代から盛んに作られ始めました。

寺伝によると、長谷寺十一面観音菩薩立像は、729 年に造立されて以来、度重 なる火災に遭いながらも、再造され続け、頂上仏のみが焼け残りました。現在 の尊像は 1538 年に、仏師運宗らによって造立されました。

の丈は三丈三尺(約 10m)で、頭と体部の二本の心柱を軸に、躯幹部が井桁形 に組まれて構成されており、日本で最も大きな木造の仏像となっています。

室町時代を代表するモニュメントとして、完全な形で現存し、全国に広がる長谷信仰の根本仏像として、奈良時代に遡る長い歴史の中で、多くの信仰を集め ています。

 

(※参考 大和長谷寺公式サイト、国指定文化財等データベース http://www.mext.go.jp/ ほか)

 

名称 重要文化財 長谷寺十一面観音立像(三躯)
  両脇侍木造難陀龍王立像・木造赤精童子立像
種類 木造
像高 10m18cm
指定日  
時代 室町時代
長谷寺案内
名称 長谷寺
所在地 633-0112 桜井市初瀬731-1
TEL/FAX 0744-47-7001 / 0744-47-7711
URL http://www.hasedera.or.jp/
宗派 真言宗豊山派
拝観時間 4月~9月:8:3017:00
10
月~11月、3月:9:0017:00
12
月~2月:9:0016:30
拝観料 個人:大人(中学生以上)500円・小学生250円・障がい者250円(手帳を掲示、同伴者1名に限り障がい者料金適用)
団体割引(30名以上):大人・大学生450円・高校生・中学生350円・小学生…200円・障がい者…200円(手帳を掲示、同伴者1名に限り障がい者料金適用)
1231日午後430分~13日夕方まで 入山料無料
【バリアフリー情報】
 スロープ:東参道(駐車場⇔本堂)車椅子の貸出:3台有(貸出場所:入山入口、総受付、駐車場)

(※出典:奈良県観光公式サイト)

(※「長谷寺」についてのテキストならびに写真は、2022年10月30日奈良県 万葉文化館でのMIROITO講演「はじまりの聖地  大和四寺物語〜花・仏像・行事めぐり」をまとめ直したものです。)