神仏習合の芸能の発祥の地

東大寺修二会の達陀 (撮影協力:東大寺 Photo by Miro Ito)

現存する世界最古の宗教行事の一つ

「お水取り」として知られる、東大寺の修二会(しゅにえ)は、奈良時代(752 年)に始められて以来、 一度も途絶えることなく行われ、現存する世界でおそらく最も古い宗教儀式の一つと考えられています。

修二会の行法で、最も大切な要素が「悔過(けか)」です。11人の「練行衆」と呼ばれる僧侶が毎年3月1日から14日までの本行の間、連日連夜、東大寺の二月堂に参籠し、万民の罪を祈り浄めながら、春の到来という、いのちの再生を祝福する、雄大かつ豊穣な“共栄と共存のヴィジョン”が繰り広げられます。

本尊は「絶対秘仏」とされる十一の顔をもつ二つの観音像(大観音・小観音)です。行事を象徴する火は、人間の罪禍を焼きつくして浄化し、水は生命と霊力の源といえます。

修二会における神秘的な祈祷や所作の数々には、アジアのさまざまな地域の影響が偲ばれます。仏教、修験道、神道の信仰のかたちと結びついてきた、日本の芸能の源流をもそこに辿ることができます。とりわけ行事終盤の3月12日以降の三日間、火天と水天の間で繰り広げられる「達陀(だったん)」の行法には、古のシルクロード由来の祭礼の影響が伺えます。

 

※出典:MIRO ITO著:写真集『隠し身のしるし(Signs of the Intangible)』(2023年1月30日発行)

東大寺修二会(お水取り) 行事情報
開催名 東大寺 修二会(お水取り)
http://www.todaiji.or.jp/
ご案内 東大寺二月堂修二会 参拝者へのご案内
開催期間 毎年年3月1日~ 3月14日
※新型コロナウィルス感染拡大防止のため、一部制限を行っての開催となります。
開催場所 東大寺 二月堂
TEL 0742-22-5511 (東大寺寺務所)
シテ方金春流能楽師 金春穂高「翁(白式)」(Photo by Miro Ito)

能楽の発祥の地 春日大社・興福寺

世阿弥が「能にして能にあらず」と評した翁は、神仏の顕現として重要な存在です。日本の芸能の祖とされる聖徳太子は、かつて天下争乱の折、家臣の秦河勝(はたのこうかつ)に命じて、六十六の面を作り、物真似をさせたところ、国土が安穏になりました。

六十六の物真似のうち、稲積(いなつみ)の翁(翁面)、代継(よなつみ)の翁(三番申楽)、父尉(ちちのじょう)の三つが、今日の「式三番」と呼ばれる儀式曲の原型となりました。これが能楽の中で一番神聖な、天下泰平のご祈祷の起源であると、『風姿花伝』(1)に記されています。これは仏教でいう「法・報・応の三身」の仏を象ってもいます。

翁舞の古い形は、奈良の伝統行事である「薪御能」において、春日大社における、白式翁の三人舞「咒師走りの儀」として継承されています。薪御能は、日本の神仏習合の歴史において、仏事であり神事として奉納されてきました。

同日に興福寺では、聖なる薪の篝火(かがりび)に灯されて、伝統的な大和猿楽四座(金春座、金剛座、宝生座、観世[旧名:結崎]座)および狂言・大蔵流が一堂に会する「南大門の儀」が「般若の芝」(2) で執り行われています。

 

註1ー『風姿花伝』は、父観阿弥清次の遺訓を元に、世阿弥元清が著した能の理論書。1400年から1425年の間にまとめられた。

註2ー興福寺の「般若の芝」は、869年に旧西金堂修二会結願式として、薪猿楽(薪御能の原型)が初めて奉納されたとされる場所

薪能 行事情報
行事

薪御能
奈良市指定文化財(無形民俗文化財)

住所

春日大社(奈良市春日野町160)
興福寺(奈良市登大路48)

内容

【5月第3金曜日】咒師走りの儀(春日大社舞殿)、南大門の儀(興福寺南大門跡)
【5月第3土曜日】御社上(みやしろあが)りの儀(春日大社若宮社拝舎)、南大門の儀(興福寺南大門跡)

問合せ TEL: 0742-30-0230(薪御能保存会/奈良市観光協会内)
奈良豆比古神社 翁舞 奈良県指定無形重要文化財 (撮影協力:奈良豆比古神社 Photo by Miro Ito)

咒師走りから翁舞へ

世界無形文化遺産である能楽の起源に一つに、仏教行事「修二会」の走りの行法が考えられています。 時代とともに、行法の枠を出ていき「咒師走り」となり、後に芸能化されていきました。

鎌倉中期以降には、「咒師走り」は、翁猿楽や追儺 (鬼追い式)での芸となっていきました(3)

奈良豆比古(ならずひこ)神社の秋祭の宵宮に行われる翁舞では、春日大社の咒師走りの儀と同様、式三番の形式で、三人舞の翁が演じられます。

奈良豆比古神社は、古くは春日神社と呼ばれており、面には室町時代のものが用いられています。民間に伝わる翁舞として、古式を残していることから、2000年に奈良県の重要無形民俗文化財に指定されました。

 

註3ー MIRO ITO(伊藤みろ)著:写真集『隠し身のしるし(Signs of the Intangible)』(2023年1月30日発行)より抜粋

奈良豆比古神社 翁舞い 行事情報
開催日:毎年10月8日
場  所:奈良豆比古神社(奈良市奈良阪町2489)
関連サイト:https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/204083
長谷寺修二会結願 だだおし法要(撮影協力:長谷寺 Photo by Miro Ito)

長谷寺 修二会結願だだおし

長谷寺の修二会(しゅにえ)は、 2月8日から7日間執り行われます。だだおし(陀々押し)は、最終日に行われる鬼追い式の呼び名です。儺儺(だだ)とは、9世紀末の唐代後期の音楽をまとめた『楽府雑録』(段安節)において、方相四人を用いて鬼を追(やら)う「駆儺(くだ)」(5) の声と記されています。

長谷寺の寺伝では、開山の師・徳道上人が閻魔大王より授かったとされる「檀拏印」(だんだいん)を押印し、法力を宿した「牛玉札」(ごおうふだ)の力により、赤鬼、青鬼、緑鬼を退散させる行事です。この印を押して幸福を得ることから、「だだおし」と呼んでいます。大きな松明が使われることから、東大寺の「お水取り」とともに、大和を代表する火祭りといわれています (6)

註5ー「驅儺鼓をちて、長笛を吹く 鬼(さうき)面を染めて 惟だ齒のみ白し」(唐・孟郊〔弦歌行〕詩より)

註6ー出典:長谷寺WEBサイト

長谷寺だだおし 行事情報
行事名 長谷寺だだおし(修二会結願)
開催日 毎年2月14日 15:00から17:30
開催場所 長谷寺 本堂
その他 ※牛玉札授与 一体3000円(内舞台に参列し檀拏印を直接額に押印。だだおし参拝可)
TEL 0744-47-7008(長谷寺)
サイト https://www.hasedera.or.jp/