国宝十一面観音菩薩立像

聖林寺十一面観音像は、三輪山山麓の大神神社(おおみわじんじゃ)の神宮寺であった大御輪寺(だいごりんじ)の本尊でした。
フェノロサが「ミロのビーナス」と並べ評した美しさは、古典的な天平彫刻の枠を超え、神話の世界から飛来したかのような、崇高な造形美を体現しています。

聖林寺十一面観音菩薩立像 国宝 8世紀(撮影協力:聖林寺、奈良国立博物館 Photo by Miro Ito)

宇宙の旋律を奏でる 東洋のミロのビーナス

聖林寺十一面観音菩薩立像は、明治時代の廃仏毀釈運動の際、日本の伝統芸術の救済に尽したアメリカ人哲学者・美術研究家のアーネスト・フェノロサ(1853-1908年) によって、「ミロのビーナス(紀元130-100年頃)」に匹敵する、と評されました。

その美しさは、古典的な天平彫刻を逸脱しつつ、天の神々の持つ威厳ある面持ちを湛えています。肩の張った球体のように充実した上半身から、衣褶が流れ出るような有機的なリズムを刻み、洗練された指遣いへと波のように伝播する大らかさ。その指先から下へは、天衣(てんね)が弦楽器を思わせるしなやかな曲線を描いて重厚な足元へと垂下し、衣が後方に流れながら完結する、宏壮たる空間を作り出しています。

蓮華座から立ち上る、菩薩を超えた「神の化身」は、無限に広がる響きを奏で、まるで宇宙と呼応する旋律が聴こえるようです。

聖林寺十一面観音菩薩立像 国宝 8世紀(撮影協力:聖林寺、奈良国立博物館 Photo by Miro Ito)

国家事業として神護景雲年間(765-769年)頃の作

聖林寺十一面観音像は、漆と金箔を潤沢に使った造像から、国家事業であったと考えられています。天武天皇の孫、智努王(ちぬおう)・文室浄三(ふんやのじょうさん)とする説が有力で、東大寺の官立工房で作られた可能性が高いと考えられています(1)。

東大寺では、大仏造立と同じ752年に、十一面悔過法要である「お水取り(修二会)」が始められました。人類すべての罪を十一面観音に懺悔(さんげ)して天下泰平・五穀豊穣を祈願する法要ですが、玄奘訳「十一面神呪心経(じんじゅしんぎょう)」に依拠する、除疫の効能も求められていたことが考えられています(2)。

時の称徳天皇(孝謙天皇重祚)は、惠美押勝の乱を平定後、元号を「神護景雲」に改め、三宝(仏・法・僧)を神々の上位に位置づけたことから、神仏習合が進み、三輪山において、観音堂が建立されたと考えられます。

8世紀後半には、大神寺(大御輪寺の前身)で十一面悔過が行われていたと想像され、「三輪山の神々を仏法に帰依させることで、疫病や凶作を止めることを目的としたもの」(3)と考えることができるのです。

註1- 倉本明佳「聖林寺十一面観音の造像と来歴」(『国宝 聖林寺十一面観音 三輪山のみほとけ』読売新聞社、2021年)
2・3-奥健夫「三輪山信仰と聖林寺十一面観音菩薩立像」(『国宝 聖林寺十一面観音 三輪山のみほとけ』読売新聞社、2021年)

聖林寺十一面観音菩薩立像 国宝 8世紀(撮影協力:聖林寺、奈良国立博物館 Photo by Miro Ito)

三輪山信仰

『古事記』を紐解くと、大国主神(おおくにぬしのかみ)がともに国造りを行った少名毘古那命(すくなびなのみこと)が常世(とこよ)の国へ渡り、悲しみに嘆いていたところに、「海を照らして依り来る神」(出雲神話)が現れ、「倭の青垣東山上」に自らを祀ることを求めました。それが御諸山(三輪山)に鎮座する大物主大神(おおものぬしのおおかみ)であるとされています。

この大物主神を祭神とし、ご神体を三輪山とする大神神社(おおみわじんじゃ)は、「神が神を祀った日本最古の社」と称されています。「国造りの神」となった大物主大神が顕現する形が蛇体であり、蛇神は水神・雷神ともなって、龍神信仰となっていきます。

大国主神は、天照大神の弟・素戔嗚尊(すさのおのみこと)の末裔であり、出雲大社の祭神としても知られます。『古事記』では、神武天皇の岳父(がくふ)、第二代綏靖(すいぜい)天皇の外祖父(がいそふ)とされています。

三輪山麓北西には、初期ヤマト王権発祥の地と考えられる、纏向遺跡や箸墓古墳があり、古代から飛鳥時代に至るまで、ヤマトの王たちに信仰されていた背景が伺えます。

聖林寺案内
施設名 聖林寺
所在地 〒633-0042 桜井市大字下692
TEL/FAX 0744-43-0005 / 0744-43-9505
URL http://www.shorinji-temple.jp/
宗派 真言宗室生寺派
拝観時間 09:00~16:30
拝観料 ◆通常拝観

大人600円(中学生以上)
小人300円(小学生)

団体割引

30名以上 大人540円(一割引)
      小人270円(一割引)
障がい者(ご本人のみ) 300円
【バリアフリー情報】
スロープ:無
多目的トイレ:無
車椅子の貸出:無(出典:奈良県観光公式サイト)

(※当国宝については、聖林寺の宝物の維持・管理に貢献させていただきたく、作品の一部を写真掛け軸として、当サイトにて、限定販売を開始いたしました。詳細は「MUSEUM STORE」をご覧ください。)